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本、展覧会、映画、ダンス・演劇のパフォーマンスなど。文学、美術などの芸術、ヨーロッパ、英語に加え、フランス語や中国語、およびその文化にも興味がある。
by cathy_kate


『こちらあみ子』今村夏子著

こちらあみ子 (ちくま文庫)

今村夏子/筑摩書房

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今村夏子氏は天才。

太宰治賞と三島由紀夫賞を受賞したデビュー作である表題作「こちらあみ子」(「あたらしい娘」から改題)は、胸が苦しくなり、でも最後は胸が温かくなり、それでもやっぱり息苦しい。
家でも学校でも疎まれてしまうあみ子に、周囲の人がイライラしてつらく当たってしまう理由も少し分かってしまう。読者として罪悪感を覚える。あみ子は知能がやや低いのかもしれないが、誰も気付かないようなことを見ているようでもある。主人公なのに、「不気味」だ。
あみ子は恐ろしく冷たい人間のように思われることもあるが、悪気はなく(そこがまた恐ろしい)、あふれんばかりの愛情を持ち続けられる人でもある。そして、あみ子を愛する人たちもちゃんといるのだ。
「こちらあみ子」は傑作小説。文学賞を選定する人たちが見逃さなくてよかったと、心底思う。

同時収録の短い「ピクニック」は、うそをつく人間と、それを支え、補強していく人間たちの姿が描かれる。うそが、うそをついた人間を超えていくとき、何が起こるのか。

書き下ろしのごくごく短い「チズさん」は、高齢者が家族に寄せる複雑な心境が、心境について直接はほとんど何も書かれていないのに、浮き上がってくる。

どの作品も、書き手が人間ではないような気がする。それでいて、人間味のある優しさが、確かに背後に存在するのだ。温かい心を持ったAI(人工知能)が書いているみたい?


by cathy_kate | 2019-08-11 20:51 | 第一幕 本
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