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本、展覧会、映画、ダンス・演劇のパフォーマンスなど。文学、美術などの芸術、ヨーロッパ、英語に加え、フランス語や中国語、およびその文化にも興味がある。
by cathy_kate


長編小説 『地球星人』 村田沙耶香著

地球星人

村田 沙耶香/新潮社

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新潮 2018年 05月号

新潮社

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『新潮』2018年5月号に掲載。近々、単行本が刊行されるようです。

あー、怖かったー、すごく怖い話だった。
ホラーじみた結末が不気味だが、それよりも、主人公が世界や周囲の人間を見る感覚が、自分のものと近かったから、ゾッとした。
すべて同じだったのではなく一部の感覚だけだし、私はあんなひどい虐待には全然遭っていませんが、自分だけが違う星の生物のように感じたり、周囲と自分が切り離されているような感覚とか、時には自分のことが他人事に思える感覚とか、どこか違う所に自分の意識を飛ばして逃避しようとしたり、なんか、世界に自分がなじめない感覚というんですかね。

主人公は、いつかみんなと同じちゃんとした「地球星人」になりたい、と長らく願う。
本当は一人一人みんな違うし、誰もがきっと多かれ少なかれ社会や他人に対して違和感を抱いている。頭では理解しているつもりなのですが、ちゃんと自然と普通に生きることができているマジョリティーというものが自分の外に存在し、いつか自分もその人たちみたいな「振り」をして生きられるんじゃないか、そんな愚かな希望をいまだに完全には捨てきれずにいたり、でもやっぱりそんな振りは無理なんだという現実を突き付けられたり。
自分は自分なんだ、それはどうしようもないし、それでいいんだ、といいかげん分かっているつもりでも、なんだか変な罠にはまりそうなことも、もしかしたらまだあるのかも。
闘いですね、闘い。

RADWIMPSの歌「棒人間」の歌詞の意味がすごくよく分かる。
芥川賞作家や、メジャーなテレビドラマの歌を担当する歌手が、こういうことを書いて発表しているのだから、実は多くの人が同じように感じているはずなのだ。文豪、太宰治しかり。

それでも、例えばこの記事の批評家が「いや、これはほんとうに「狂気」なのだろうか。そう思うのはこちらが「地球星人」であるからではないのか。」と書くのを見るとき、きっとこの感覚がこの人にとってはなじみのないものだったんだろうなと思う。もしかしたら、多くの人にとっては思いも寄らぬものだったから、画期的な文学作品と見なされたのかもしれない。


by cathy_kate | 2018-08-15 21:39 | 第一幕 本
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