本、展覧会、映画、ダンス・演劇のパフォーマンスなど。文学、美術などの芸術、ヨーロッパ、英語に加え、フランス語や中国語、およびその文化にも興味がある。
by cathy_kate カテゴリ
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『ストーナー』 ジョン・ウィリアムズ著、東江一紀訳アメリカで原書が刊行されたのは1965年。 2006年にアメリカで復刊され、フランスで訳され刊行されたのを機に、 ヨーロッパでベストセラーになり、本国アメリカでも人気となったらしい。 貧しい農家出身のさえない青年がミズーリ大学で英文学に目覚め、 そのまま大学で教える身となって、研究と教職に熱心に取り組みながらも、 家庭生活では苦労も多く、また、学内でも執拗な嫌がらせに遭い続けるが、 中年になって若い女性と出会って恋い焦がれることを知り、 退職間際に末期がんとなって、この世に別れを告げる、という一生を描く。 著者自身も大学で教えていた人で、この作品のテーマは「愛」と言っている。 愛のない者はよい教師とは言えない、とも語っている。 学問への愛と、人への愛。研究への欲と、いわゆる情欲。 その2つは両方とも必要で、同じとも言える。 世間から見れば不倫だが、主人公とその愛人となった女性は、 このことを身を持って悟る。 小説のラストでは泣かなかったが、「訳者あとがきに代えて」の最後で泣いた。 訳者はがんと闘いながら、最後に本書の翻訳に取り組み、62歳で亡くなったという。 「最後は意識の混濁と闘いつつ、ご家族に口述筆記を頼んで訳了をめざされたが、 とうとう一ページを残して力尽き、翌日に息を引き取られた。」(本書332ページ) 愛を持って仕事をしている人は強い。 私は、よいものを作るためなら何でもする、と思ってはいるが、 それなりの興味を持ってそれなりに頑張って仕事をしているだけで、 しょせんはそれなりだという気がする。そこに愛はない。 だから、なんだかときどき申し訳なくなり、罪悪感を抱く。 会社に対してではなく、世界や自分の人生に対して。 このままでいいのか? 別のことをすべきではないのか? と思いつつ、同じようなことを続けていくのか、違うことを始めてみるのか。 どちらも、それが人生なり、ですかね。 いつやって来るともわからない死を思うのも、人生。 それを予感できる状態で迎えることになるとして、そのときにこの小説の 主人公、ストーナーのような心境に到達できるのだとしたら、幸せなのでしょう。
by cathy_kate
| 2016-07-30 23:47
| 第一幕 本
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