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本、展覧会、映画、ダンス・演劇のパフォーマンスなど。文学、美術などの芸術、ヨーロッパ、英語に加え、フランス語や中国語、およびその文化にも興味がある。
by cathy_kate


『ブラインド・マッサージ』 ロウ・イエ監督

原題:推拿
2014年中国、フランス

『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』『二重生活』を作った、
中国で映画制作を禁じられたこともあるロウ・イエの最新長編映画。
期待を裏切らない、天才なんですねー。

社会のマイノリティーを描きながら、人間に普遍の残酷さと悲しさと、
愛と希望を描くのです。

大の苦手の血!が出てくる場面があるのがきついですが、それを我慢してでも
見たいほど、すごい映画なのです。

南京のマッサージ院を舞台に、視覚障がい者たちの群像劇のような仕立てに
なっている。

冒頭で、ナレーションで映画の説明が入るのが、この監督の映画としては
珍しく、なぜ?と思ったのですが、そのうち、映画の題名や監督名やキャストの
紹介などがそのナレーションで入り、視覚障がい者を描いた映画だからか、
と気付いた。

終盤で、青年が暴力を振るわれる場面で、画面が暗くなり、見えない中で
殴られる恐怖がいかほどのものか、少しは想像できるような演出がなされている。
でも、その後徐々に映像が見えてきて、でもそれは部分的でぼやけている。
やがて、それが、青年が取り戻した視力で見ている世界なのだと観客が思い当たる。
うまいですよねー。

子どものときの交通事故で母と視力を失った小馬(シャオマー)。
端正な顔立ちの純朴さを感じさせる青年だが、マッサージ院の経営者の一人、
シャーの同級生、王(ワン)が連れてきた恋人に「一目ぼれ」し、かなわぬ
片思いに我を忘れそうになる。

小馬のその様子に気づいたもう一人の経営者、チャンが、小馬を、行きつけの
違法の売春宿に連れて行く。
小馬はそこで出会った女性と親密になるが―。

ハンサムでダンスが上手なシャーは、盲目を理由に見合いにことごとく失敗、
しかし、新人の女性マッサージ師が客から美人と言われているのを聞き、
彼女の美が欲しくなる。
しかし、彼女が心をよせるのは小馬なのだ・・・。

恋人の親に「全盲の男は駄目だ」と結婚を反対され、南京に駆け落ちしてきた
王は、弟の借金の返済を取り立て屋に迫られ、結婚を先延ばしにしたくないと、
ある思い切った行動に出る。

徐々に視力を失っていく女性は、目が見えるうちにと、素朴な同僚の男性に
アプローチするが、「俺はお前にふさわしくない」と言われ―。

見えないことは恐ろしいが、そうやって生きている人がいる。
見える人は、なかなかそのことを見ようとしないけれど・・・。
でも、誰だっていつそうなるかもわからないのに、なぜ見ようとしないのだろう?

この監督が描く報われない愛は胸をえぐられるようですが、それでも、
生きていかなくてはいけないし、それも人生なのですね。

マッサージ院の視覚障がい者たちは、数人を健常者の役者が演じている以外は、
演劇経験のない実際の視覚障がい者たちが演じている。
体当たりの演技に感服しました。
みんなではしゃいで笑っているとき、心底楽しそうなのにも、心を打たれました。

映画の公式サイトはこちら
by cathy_kate | 2017-01-29 21:12 | 第五幕 映画
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